ルポタージュ「KAIGAI」
私が海外で体験した海外四方山話集です
硬貨の存在しない国(ホーチミン・ベトナム社会主義共和国) 2003/04/26
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日本の経済はもっかデフレ状態である。物価が下がり、収入も減るといういわば経
済停滞期の真っ只中。▲反面、ベトナムでは高度の経済成長期、インフレの真っ只
中だった。1万円札を街の両替所に持って行って、現地通貨のドンに変えた。写真
の通り変えられたドン紙幣は5万ドン札で25枚。誰でも金持ちになったと錯覚する
瞬間である。つまり1万円=125万ドン。1円=125ドンとなる。▲5万ドン紙幣の上
には10万ドン札もあり、これはどこの店でも使うのを断られた。最小紙幣は2000ド
ン札で、日本円では1.6円の価値である。数字の0がやたら付くと言うことは、高価
な感じが否めなくて、慣れてくるまで面倒が多かった。更に追い打ちをかけたのが、
硬貨がいっさい存在しないこと。庶民的な感覚ではやはりお札は高価だ。▲ホテル
のフロントでハガキに貼る切手を買ったときのこと。「セブンティーン」(セブンティー
ン・サウザンズ・ドンのこと)と言われて、つい2000ドン札を差し出してしまう。出され
た方はゴミみたいな価値の札に驚いて、怒り出す。「何でこの国はデノミ(注)を行わ
ないのだ!」。と、私もついフロントのお姉さんに八つ当たりしてしまった。▲実はた
び重なるインフレとデノミの繰り返しで、更に少額な100ドン札や200ドン札はほと
んど見かけなくなったという。そんな状況下で昔は存在した硬貨が消えたのも当然だ
ろう。それにしてもバイクやパソコン、果ては車や不動産など高額な物はどのように
して買うのだろうか。トランクに札を詰めて持ち運ぶのだろうか。ベトナムでは現地通
貨ドン以外に米ドルも流通する。そんなところにこの謎を解くカギがあるかもしれな
い。▲「貧乏ならお金を作ればいい」。子供時代にそんな考えをした経験を誰もがし
たはず。しかしお金はモノと緊密に釣り合った状態で価値が存在するもの。むやみ
に増やせばお金の価値は下がる。世界大戦後のドイツのように、トラックいっぱいの
札で買い物する風景を、昔に教科書で見たのをフト思い出した。(注)デノミネーショ
ンの略。通貨単位を切り下げること。1/10、1/100、1/1000など時と場合によってそ
の規模は異なる。
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