ルポタージュ「KAIGAI」
私が海外で体験した海外四方山話集です

 
続・地上の楽園(マニラ・フィリピン共和国)中編 2005/10/22
(前編より)

 一方、マニラや他の都市部の繁華街には、「ミュージックラウンジ(もしくはVIDEO- KE)」と呼ばれるカラオケ屋が存在する。大概、吹き抜けの野外みたいな建物で、大 音響で人様のカラオケが近辺に響き渡る。日本語の歌は殆ど皆無である。あって も、「学生街の喫茶店」とか「青春時代」とかで、つまらない事この上ない。大体、現 地のフィリピーノやフィリピーナたちが何時もマイクを占領しているので、日本の唄な んか歌ったら大ひんしゅくだ。
 この手のカラオケ屋はとにかく安い。支払う対象は飲み食いした代金だけなのだ。 ビール小瓶一杯50ペソ(110円)で何時間でも居られるし、うたい放題である。ホステ スなんて居やしないから、1人で行ったら馬鹿行為と思われる雰囲気である。

 今日は土曜日。いよいよ今晩、3年ぶりの「Black & Silver」に行く気になった。とり あえず、店がまだ存在しているのかを確かめる為、昼下がりにホテルを出た。名刺 を片手に、記載された住所までひたすら歩く。「Black & Silver」が面する「M.H.デル・ ピラール通り」は、我が宿泊する「ロータス・ガーデンホテル」の裏手にあったので容 易に出ることが可能だったが、問題は番地だった。M.H.デル・ピラール通りの2120番 地はホテルからは正反対の方向だった。結局、この通りを端から端まで歩く羽目に なってしまった。
 自分の記憶力がつくづく嫌になる。3年前とはいえ、自分は実際にこの近辺を訪れ ているはずである。それでも、印象に残る記憶が全くない。あの時は、よっぽど飲み すぎで酔っぱらっていたのだろうか。店をカンバン(閉店時間)で追い出され、支払っ た金額の多さに愕然とした記憶は残っているというのに。
 通りの左サイドが偶数番地なので、更に通りの看板群を見上げながら東に歩く。す ると、通りが突き当たって終わってしまった。
 (やはり経営破綻したのかな?)
が、そこに建っていたビルの番地表記を読むと、2500番代だった。ナンのことはな い、該当番地を通り過ぎてしまったのだ。気を取り直して通りを引き返す。ほんの 100mも歩いたら、頭上に「Black & Silver」の文字があった。潰れてなんていなかっ た。
 まだ昼下がり。店内に入って、
 「今晩、夕食後に来るから」
と、言って挨拶を済ませる。さすがに女の子(ホステス・タレント)たちはまだ出勤して いない。ガラの悪そうなオッサンたちが数人いた。料金システムを尋ねると、
 「ニッポンジン?」
と、逆に聞かれた。
 「イエス アイ アム」
と、答えると、料金表のチラシを手渡してくれた。
 間口の狭い、奥に細長く伸びた店内。3年前の記憶が甦った。この細く奥まで伸び た通路に一列になって、タレントたちがオレの歌に合わせて踊ってくれたのだ。確か ショー・タイムと言っていて、一日一回の催しだった。
 「ショー・タイムは何時頃? その時間に合わせてくるから!」
と、カウンターの男に聞いてみた。
 「今はショータイムはやってません」
が、その男の答えだった。(後編に続く)




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