ルポタージュ「KAIGAI」
私が海外で体験した海外四方山話集です

 
続・地上の楽園(マニラ・フィリピン共和国)後編 (乙) 2005/10/22
(後編 甲より)

 私の隣に着いたタレントの名前は「ジャッキー」。在籍7年の大ベテランとのことだ。 3年前に来た私のことを覚えていると言ったが、果たして本当かどうかは疑わしい。
 私が前回この店を訪れたのは3年前、西暦2002年11月4日である。自分が今でも 覚えているのは、テーブルに着いた3人のタレント(名刺に寄せ書きした3人である) と、マスターと思われるオジサンだ。このオジサン、矢沢栄吉にそっくりで、ショータイ ムの時に私が唄った歌を手伝ってくれた。だから顔はよく覚えているのだが、カウン ター内には居ないようである。
 早速、寄せ書きのある名刺を取り出して、3人の消息を当店きってのベテランであ る「ジャッキー」に尋ねてみた。
 「みんな辞めちゃったわー。○○は故郷に帰って、××は彼氏が出来て、△△も 結婚で辞めたの」
予想していた答えだっただけに、別に驚きもしなかったが、寂しい気分であった。ひ とりでも私を知る者がいれば、当時の想い出話なんかをとことん腰を据えて話し合い たかったからだ。
 ジャッキーとの話によると、「Black & Silver」のお店は2程前にオーナーが変わっ たらしい。そして、新オーナーを私に是非紹介したいから、今ここに呼んで来るとい う。「別に必要はない」と断ったが、「今度来たときに安くなるから、あなたにとって得 な話よ」と言い張ってきかない。「今度はどうせ3年後だから・・・」と言って笑って誤魔 化したが、ジャッキーは立ち上がって、奥から新オーナーの手を引っ張って連れてき た。小柄で冴えない老人という印象だった。彼と簡単な挨拶を交わして、握手して新 オーナーは戻って行った。
 「今、”掃除夫みたいだ”って言ったでしょう?」
と、ジャッキーは私をからかう。当然、私がそんなことを口に出して言うわけがないの だが、誰でもそう感じても仕方がないオーナーの風体だった。ジャッキーのこのやり とりも、案外お決まりの芸当なのかなと思った。
 私は話題を変えた。
 「ショータイムが無くなったんだって? これが楽しみだったから残念だな」
と私が言うと、ジャッキーは
 「確かに無くなったけど、随時みんなで練習しているから、いつでもOKよ」
と、答えた。そして、即座に「準備せよ」の命令を店内にタガログ語で発した。(後編  丙に続く)




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